流されてオスジュリ1

98/10/07(水) 04:22:03 かの

その日も聖地は晴れだった。


98/10/07(水) 04:24:42 ちぺ

遠乗りには絶好の日だな、とオスカーは空を見上げる。

98/10/07(水) 08:18:39 かの

執務が早く終わったら、ジュリアスを誘って
森に出かけるというのはどうだろう。

98/10/07(水) 15:36:43 ちぺ

「このような時間からか」
提案に、ジュリアスは少し驚いたような顔をする。
「おいやですか」
「明日は休みでもあるしな。…たまには、よいかもしれぬ」
「では、急ぎ、執務を片付けてしまいましょう」
ウインクをしてそう言うと、ジュリアスは苦笑する。
「まったく、おまえといると退屈せぬな」
「お褒めいただき、恐縮至極」
真面目な面持ちで答える。
くすくすと笑いながら、ジュリアスは書類を取り上げた。


98/10/07(水) 16:59:22 かの

馬を走らせていると、日常の雑事を何もかも忘れる。
それはジュリアスも同じであるようだった。
手早く執務を済ませて準備を整え、馬上の人となった二人は、
道慣れたコースをたどって森へと向かう。



98/10/07(水) 23:50:08 ちぺ

森に入り、馬の速度をゆるませる。
夕闇が迫っている。
この時間に、森の奥にまで行ってしまうのは危険だろう。
「夕方の乗馬はいかがですか」
「悪くないな」
ジュリアスが微笑む。誘ってよかったと思う。
この時、オスカーはまだ、自分たちを待ち受ける運命を知るよしもなかったのであった。 

98/10/08(木) 16:52:12 かの

薄暗くなっていく気配を感じながら、いつも馬を休ませる
森の泉にたどり着く。
泉のほとりに馬を繋いで、二人はしばしの休息をとった。
森の中の空気は、ひんやりとして清々しい。
深い緑の匂いを胸一杯に吸い込むと、身体が喜んでいるのを感じる。

ジュリアスは、慈しむように優しい瞳で、水を飲む馬達を見ていた。
オスカーは、そっと背後から近づくと、静かに声をかける。
「あなたのそんな表情、他の誰にも見せたくないですね・・・」
「いきなり何を言うかと思えば」
少し驚いた風のジュリアスが振り返り、笑みを含んだ声で応じる。
だが、皆まで言わせずオスカーは、ジュリアスの身体を抱きしめると
その唇を盗んだ。
「ん・・・」
少しだけあらがう素振りを見せたものの、すぐにジュリアスの腕も
オスカーの身体を固く抱きしめる。
舌が、絡み合う。
夕暮れの中の陶酔。
セピア色の情景に、二人のシルエットがとけ込む。


ひとしきりキスに夢中になっているうちに、ジュリアスの
身体の力が抜けていくのがわかった。
オスカーはその身体を支えながら、軽く音をたててジュリアスの唇を
吸い上げ、その表情を見る。
凛々しい美貌が、うっとりと甘い快楽に酔っていた。
わずかに開かれた瞳は潤んでいて、常の鋭い光は姿を消し、
ジュリアスが本来備えたその美しさだけを際だたせている。

「ジュリアス様、ここで・・・よろしいでしょう?」
耳元で囁くように告げると、甘い戦慄に身をおののかせて、
ジュリアスは身悶えた。
「だめだオスカー、こんなところでは・・・誰かに見られたら・・・」
「もう夕暮れです。こんな森にまで、誰もきませんよ」
やりとりの合間にも、オスカーの指がジュリアスの服の隙間に
忍び込んでいく。
「オスカー・・・私は・・・」
そう言って虚空を見つめたジュリアスは、観念したように眼を閉じ、
熱い吐息を漏らした。

98/10/10(土) 00:32:59 ちぺ

緩めた襟元から見える、白い首筋。
もう陽も落ちかけ、森の木々がたちまち視界を暗くし始めているというのに。
それでも、この肌の白さは眼を射るばかりだ。
みつめていることが罪のようにも思われて、オスカーはその場所に唇を落とす。
殺した声が応える。それ以上に、腕に抱いた身体が応える。

尖らせた舌の先で辿り、唇で軽く吸い上げ、オスカーは存分に、ジュリアスの首筋を味わった。
ふいに、ジュリアスがきつくしがみついてくる。
立っていることがつらいのかもしれない。
それでも、オスカーはまだジュリアスを横たえさせる気にはなれなかった。

このまま、少しずつ着衣を剥がしていってみたい。
夕闇に煙る森の中、生まれたままの姿で立ってるジュリアスを、見てみたいと思った。 

98/10/12(月) 23:19:38 かの

肌を滑り落ちるシャツの感触が、やけに敏感に
感じられる。
いたずらなオスカーの指に露にされていく素肌が、
ほの暗い森の中でぼうっと光っているように見える。

現実味が希薄になっていた。
感知できるのは、オスカーの指と舌だけ。
夕暮れの屋外で、肌を露にしている事実は
ジュリアスにとってあまりに非現実的な現実なのだった。

ぱき、という音を立てて枯れ枝を踏みしめ、オスカーが
後ろに後ずさる。
今まで触れていた肌のぬくもりが途絶えたことにより、
ジュリアスは森の空気を素肌に直に感じた。
荒くなりかけた息を整えようと、深呼吸を繰り返す。

オスカーが、少し離れたところから見つめていた。
薄暗い森の中、獲物を見つめる獣のように光る眼差しで。
その視線に射抜かれている自らの身体が、いつしか
一糸纏わぬ姿にされていることを今更ながら自覚して、
ジュリアスは身の内にさらなる熱が燃え上がるのを
感じた。

「オスカー」
名を呼ぶ声がかすれている。
求めるように、白い腕が差し伸べられた。

98/10/13(火) 04:45:20 ちぺ

まるで神話の情景のようだ、とオスカーは思う。

昼と夜との境。葉の生い茂る木々の狭間。一糸纏わぬ姿で立ちしなう、美しい長身。
今にも、背に流れる黄金をたてがみへと変じ、神獣へとその姿を変えてしまうのではないのかとさえ思われる。

神獣へと――。もうすぐ、変わる。
森の中で、互いに全裸となって睦み合おう。獣のように。
汗を滴らせながら、雄叫びを上げるまで貫こう。

かすれた声が呼ばわる。
腕がこちらに差し伸べられる。
「まだです。まだ――。もう少し、あなたを見ていたい」
「見えるのか…?」
もう、ずいぶんと暗い。

「見えますよ。とてもよく、見えます」
決して、そんなわけはないのだけれど。
「そなたは…獣のような眼をしているのだな」
とまどいと苦笑を含んだ声が答える。
「俺が、獣のようですか?」
さくりと、一歩だけ近づく。
「あ、ああ…」
「では、獣になってしまいましょうか?」
「オスカー、そなた…」

オスカーは、飛びかかるように、一気に距離を詰めた。
  

98/10/31(土) 14:05:16 かの

勢いに後ずさる白い身体を強く抱き寄せる。
性急に唇を合わせる。舌を絡めるのもそこそこに
首筋に噛みつき、なだらかな胸筋へと顔を落とす。
薄色の乳首を口に含む。ジュリアスが息をのむ。
形を保ち始めたジュリアスを握りこむと、腕の中の身体が
一気に緊張する。

「オスカー!」
まだ戸外での行為に戸惑いがあるのか。
オスカーの指と舌に翻弄されながらも、ジュリアスは
軽い叱責の声を発した。
だが白い身体も、吐き出される吐息も明らかに熱を帯びている。
「やめて、欲しいですか?」
跪き、臍の下方へ舌を遊ばせながら見上げるようにして言う。
そんなつもりがないことぐらい、先刻承知なのだ。
意地の悪い問いかけにジュリアスは答えられない。

「確かに、ここでは誰かが通りかかったら、
見られてしまうかも知れませんね」
息を止めて、ジュリアスが身をこわばらせる。
その間にもオスカーの指はジュリアスの身体を昂め続けている。
ジュリアスの整った眉根が寄る。唇が熱い息を吐く。

と、堪えきれないというかのように、ジュリアスの指が
オスカーの髪をかきむしった。
「今は・・・見ている者などおらぬ!」
ジュリアスは長身を折り曲げるようにして、オスカーの唇に
自らの唇を重ねる。甘い舌を味わいながら、その後方を
かきわけるようにオスカーは指を蠢かせた。

98/11/17(火) 04:34:08 ちぺ

ジュリアスの身体に火がついたのがわかる。
そうなった時のジュリアスは激しい。まっすぐに、なんのためらいもなく求めてくる。
荒い息遣いを耳で確認しながら、ひざまづいた格好のまま、舌で高めてゆく。掌で、抱えるようにした腰を撫でる。引き締まった筋肉が緊張しているのがわかる。

「なぜ、そなたは脱がぬのだ」
いとおしむようにというよりは、激しい欲求をそのままに、オスカーの頭髪を指でくしゃくしゃにしながら、ジュリアスが尋ねてくる。
責めている口調、苛立ったような息遣い。
「私ばかりが、このような…っ」
そう言いながら、背がしなる。

口の中を満たしている塊を、ゆっくり外してゆく。
「寒いですか」
四季のない聖地であるとはいえ、夜間に戸外で肌を晒しているのだ。
「そうではない、そうではなく…」
「そうではなく、なんなのです」
背後に回した指で悪戯を始める。

「オスカーッ!」
必死の声に、オスカーはすばやく立ち上がる。
唇を重ね、互いに深く貪り合う。
「俺も…もう、限界なんです…」
キスの合間に言葉をつなぎ、片手にジュリアスを抱いたまま、もう片手で自らの服を落としてゆく。

ここには最初からそのつもりで来ていた。準備に怠りはなく、身体にオイルを備え、今にも互いの欲求が満たされようとしていた、まさにその時だった。

「ジュリアス様!」
すでに陽の落ちた森の中、呼ぶ声は、驚くほどすぐ近くから聞こえたのだった。 

99/01/12(火) 02:21:10 かの

「なっ!?」

驚愕と動揺で、一瞬にして血の気がひいた。
今まさに、繋がろうとしていた身体。
森の中で、獣のように一糸纏わぬ姿で。
光の守護聖と、炎の守護聖が。
まさか、こんなところに誰かが来るなんて。
頭の中は空白混乱大パニック。

そのとき。
世界がぐらりと歪んだ。
瞬間、声の主の姿を確認するべく振り向いた二人の目に
映ったものは、ゆらゆらと歪みながら、バツの悪そうな、
呆けたような表情でこちらを見ている、
精神の教官・ヴィクトールの姿。

無言。空白。
とっさに言葉が見つからない。
ヴィクトールは口を開けたまま、硬直したように立ちつくしている。
その間にも景色は激しく歪みを増し、空気は異様な重さで
彼らの身体を包み込もうとしていた。
「これは一体?」
「ジュリアス様!おつかまりください!」
オスカーの力強い腕に抱きしめられたまま、ジュリアスは
激しい目眩を感じて目を閉じた。めまぐるしく空気の圧力が
変わっているようだ。
ヴィクトールに見られてしまったことは重大な問題だが、
今はもはやそれどころではなかった。
自分たちが立っているのが、地面なのかさえ
もう確かではない。

「うわっ、なんだこれは!?」
同じく動揺したようなヴィクトールの声も聞こえる。
激しい降下時のような強力な圧力に胃がひっくり返る。
「オスカー!」
「ジュリアス様!」
ジュリアスは、無意識にオスカーの身体にしがみつく。
オスカーも、ジュリアスの身体を離すまいと、強く抱きしめる。
そうして歪み続ける空間の中、二人の守護聖と一人の教官は
混沌の嵐の渦に巻き込まれたのであった。 


99/04/25(日) 16:01:57 ちぺ

強い陽射しが肌を灼く。
波の音が耳に届く。
オスカーは跳ね起きた。
気を失っていたようだった。

あたりを見回す。
倒れていたのは砂浜だった。
背後には生い茂る木々。木々にからみつくツタのような植物。見たことのない光景。

だが、オスカーにはここがどこであるのかを考えるよりも大事なことがあった。
気を失う寸前まで抱きあっていたジュリアスが、いない。
なによりもまず、ジュリアスを探さねば。

海に入ってみる。遠浅のぬるんだ水は、しばらく歩いてみてもオスカーの膝までにも届かない。
気を失う寸前までは、たしかに抱きあっていたのだ。
さほど遠くにいるとは思えない。ジュリアスが海にいるのなら、これだけ目をこらしてみて、何も見えないはずがない。

オスカーは、背後のジャングルへと走る。
「ジュリアス様!」
叫びながら、ジュリアスもまた、自分と同じように一糸まとわぬ姿であるのだろうと思った。
 

99/05/11(火) 05:51:19 かの

じめじめした空気が肌にまといつく。
不快さにジュリアスは小さな溜息をついた。
木々の間から漏れてくる、わずかな光に導かれるように眼を開ける。
ゆっくりと身体を起こしてみる。何も身につけていない。
とっさにあたりを見回してみたが、生き物の気配は感じられなかった。
そうだ。オスカーと森へ遠乗りに出かけ、そして。

どうも記憶がはっきりしない。
ただ、自分が全裸で、どことも知れぬ森の中にいると
いうことだけが現実だった。
この森は、聖地の森とはあきらかに違う。
木々の形も、それにからみつく蔓も生い茂る下草も、
聖地では見たことのないものばかりだ。

「オスカー?」
つい、いつものように声が出た。
意識を失うまでは、確かに固く抱き合っていたというのに。
常に傍にいるのが当然のような気がしていたのに。
全裸で見知らぬジャングルに放り出されたという事実より、今ここにオスカーがいないという、そのことの方が衝撃なのだった。

ふらりと立ち上がると、ジュリアスは全裸であることも気にせずに歩き出す。
オスカーを探し出さなくては。
そして一刻も早く元の場所へ戻るのだ。

突然、下草の茂みの中で何かの音がした。
低いうなり声のようなものが聞こえる。
咄嗟に身を引き締めて眼をこらす。
はっと気づくと、驚くほど間近に獣の目が光っているのが見えた。
突然動いてはいけない。
馬と接するジュリアスは、獣を驚かせる行為が命取りであることを知っている。
動いたら反射的に襲いかかってくるかも知れない。
だが、せめて武器があれば。せめて服を身につけていれば。
唇をかみしめながら、ゆっくりと後ずさろうとしたとき。

「ジュリアス様!」
大きな声で名を呼びながら、赤銅色の髪の軍服姿が駆け寄ってくる。
その衝撃に驚いて、獣は瞬時に姿を消した。
「ヴィクトール!?」
「ご無事でしたか!俺達は一体どうなってしまったんです?」
「私にもわからぬ。だが、とりあえずそなたのおかげで助かった。礼を言う」
難を逃れた安心感と、とりあえず一人ではなかったという心強さに、ジュリアスは深い溜息をついて逞しい軍人に微笑みかけた。

「とにかく今後は行動を共に。ところで・・・う」
改めて落ち着いたところで、ジュリアスの姿をまじまじと見たヴィクトールは、突然耳まで赤くなって口ごもった。
先刻の衝撃的な光景を思い出したのだ。
乱れる金の髪が、白い肌に流れて。
浅黒い逞しい身体に抱き寄せられて、しなうように蠢いていたのは。
まさに今、ここに立っている気高い表情の人ではないか。

ジュリアスは臆すところなく、全裸ですんなりと立っていたが、思い出してしまったヴィクトールは、その姿をまともに見ることができないのだった。
咄嗟に自分の着ていた上着を脱ぐと、ジュリアスに差し出す。
「俺の服ではお気に召さないでしょうが、とりあえずこれを」
「ああ、助かる」
身長こそヴィクトールより高いジュリアスだが、体格にはずいぶんな差がある。
ジャケットの袖に手を通すと、かなりの余裕を感じた。
「ボタンを全部留めてしまうとよいでしょう。俺では留まらないのですが」
「そなたの身体はずいぶん厚みがあるのだな」
ジュリアスは感心しつつ、ボタンを留めようとしたが、特殊な留め具をうまくかけることができない。
「すまないが、そなたが留めてくれると助かる」
「わかりました。失礼します」

手袋をはめたヴィクトールの手が、軍服の前を留めるために、
ジュリアスの胸に近づいた。
軍服の袷からのぞく白い肌。
先刻、赤毛の男の手で撫で回されていた。
考えまいとすればするほど、ヴィクトールの呼吸があやしくなる。
ふと、ジュリアスがぴくりと身を震わせた。
わずかに触れたぬくもりにも過敏に反応する身体。
ヴィクトールの知っているジュリアスは、常に厳格で光の守護聖として寸分の隙もない姿をしていた。自分が見たものは何だったのだろう。
光の守護聖と炎の守護聖の、情事の現場?

重苦しい沈黙が続き、もうすぐ留め具を留め終わろうというとき、ついに、押さえていた言葉が堰を切ったようにあふれ出した。
「ジュリアス様、あなたとオスカー様は・・・」
もう、押さえておくことは不可能だった。


16,99/05/13(木) 04:43:12 ちぺ

オスカー。
その名を聞いたとたん、ジュリアスは弾かれるように振り向いた。
「どうなさいました」
「しっ」
ジュリアスの視線が宙をさまよう。

「声が…いや、気のせいか。そなた、オスカーの声を聞かなかったか。私を呼ぶ声を」
「あいにく、俺には何も」
「そうか…」
ジュリアスが息を吐く。
「それで、オスカーがどうしたと」
「どうした、とは」
「今、何か言いかけたではないか。オスカーが、と」
「いや、その――」

 改めて、ヴィクトールの金の瞳がジュリアスを見る。自分には少しきつい服を緩そうに着ている光の守護聖。
「参ったな」
小さな声で、一人、つぶやく。
「いくら俺が鈍いと言ったって、あれが情事の現場だということぐらいわからないわけがあるか。信じられぬが…しかし、そういうことなのだろう」
「どうした」
「い、いえ」
「おかしな男だ。…まずはオスカーを探そうと思うのだが」
「ええ」

ジュリアスは、ヴィクトールに背を向けた。ジャケットの下から、ジュリアスの脚がまっすぐに伸びている。歩く度に、ジュリアスの白い腰が見え隠れする。
森の中で思わず叫んでしまっていたのは、その人だと確認するためだったのか。これほどに見事なブロンドを持つ者など、聖地には他にいないと知っていながら。

守護聖という存在は、神話に出てくる神々のようだと思っていた。赤毛の青年に慈しまれていた情景を信じたくはなかったのか。あのままに黙していたら、信じ難い光景が展開されたのか。あの腰に――。今、己の軍服に覆われているあの腰に、生身の身体が。
ヴィクトールの喉仏が大きく上下する。

初めてであったとは思われない。あのように、戸外で大胆に裸身を晒して睦み合っていたのだ。初めてではあるまい。すでにあの――、ジャケットの裾の揺れる度に白さが目を射る、その奥で、すでに幾度も。赤毛の若者の情熱が、きっと幾夜も。

ばかなことを考えている、と頭を振る。
だからどうしたというのだ。自分には関係ない。だとしても、それこそまさに、かつて書物で読んだ神話の神々のようではないか。
神話には、自然の運行を管理するほどの強大な力を持つ神が、感情のまま、自らの欲望の赴くままに行動する姿が描かれていた。

守護聖といえど、人間であることには変わりないのだそうだ。ならば、恋もしよう、欲望もあろう。それに、この方とあの若者ならば、似合いというものではないか。
ヴィクトールは、そのように考えて、ようやく息をついた。

前を歩いていたジュリアスが立ち止まる。
「そうか…。このジャングルの雰囲気と植物の匂いで気づかなかったが」
こちらに顔だけを向ける。
「この服は、そなたの匂いがしているな」
「し、失礼を。クリーニングはしているのですが」
「咎めているのではない。…不快ではない」
そう言うと、光の守護聖は柔らかく微笑んだ。
ヴィクトールの顔が、瞬時にこわばった。

「ジュリアス様」
小さく、かすれた声で呼ぶ。下生えを踏む音にも神経を使い、ぎりぎりまで近づく。
「どうした」
「お静かに。動かんでください。少しの間…」
小声で、抑えながらも強く言う。
「ヴィク…」
そっと、ヴィクトールが手を伸ばす。背後から、ジュリアスを抱き留める。

「何を――」
「何もおっしゃらないで」
手袋を填めた手が、ジャケットのボタンにかかる。
「よさぬか…」
小さく、ジュリアスは抗った。
「どうか、どうかそのままで」
「ヴィクトール――」

襟元の留め金は外さずに、ボタンが二つ、三つとはずれてゆく。その隙間に、ヴィクトールの手が滑り込み、探り出す。

「ああ――っ」
ジュリアスが、びくりと身を震わせた。

滑り込む時の慎重さとはうらはらに、抜け出る動きはすばやかった。ヴィクトールの手には、ジャケットの内ポケットから取り出した折り畳み式のフォールディングナイフがある。片手でロックを外し、刃を飛び出させるやいなや、ナイフは宙を走って前方の木に蛇の頭を縫い止めた。

「毒蛇ではないかと。服をお貸しした時には、ナイフのことは忘れておりましたので。失礼をいたしました」
ジュリアスは目を見開いて、蛇の尾が断末魔に苦しむようすを眺めていた。
「いや…。感謝している」
掌を握り込み、ヴィクトールは内心うろたえてもいた。
内ポケットに手を差し入れる時、自分で着ているのとは違う感覚に、わずかばかり手間取った。手袋越しにではあったが、小さな突起に触れてしまった。
その瞬間、抱き留めていたその人の唇から、喘ぎがこぼれた。耳に残る甘やかな声。

それをかき消すように、ナイフを引き抜いてハンカチで血を拭う。
蛇はまだ、身をくねらせて暴れている。
このような状況下ではナイフは大事な武器だが、砥ぐための道具のないことが心配される。
「さあジュリアス様、オスカー様を探しましょう」
「う、うむ」
ジャングルの中を、二人は進む。

19 99/05/24(月) 11:08:55 かの

しばらく進むうちに、突然、ジュリアスが身体の
バランスを崩した。
ヴィクトールが、すぐに駆け寄る。
「どうなされました!?」
「大事ない。木の根に足を取られたのだ」
「あっ、これは・・・俺としたことが、申し訳ありません!」

気づいて、ヴィクトールは狼狽えた。
柔らかい泥の上に、落ち葉が積み重なるジャングルの地面。
だが、ジュリアスは、裸足のままなのだ。
ヴィクトールは、ジュリアスを倒木に腰掛けさせた。
その足を、両手で包み込むようにして調べる。
まださほど、大きな傷はできてはいない。
だが、木に擦れた擦り傷や、切り傷が見受けられる。

「お待ちください。今すぐ・・・」
ヴィクトールは、自分が着ている上衣を脱ぐと、
ナイフを巧みに使って分解した。
ジュリアスの足に、布を巻き付け、覆い、結びつける。

「これで、即席の靴がわりにはなるでしょう。
耐火効果もある丈夫な布です」
「感謝するぞ、ヴィクトール」
そう言って、微笑んだジュリアスの笑顔。
その邪気のない美しさに、ヴィクトールは思わず
我が目を疑う。
『こんな風に笑う方だったのか・・・花のようだな』
普段の厳格な様子からは、読みとれない意外さが
そこにはあった。

唐突に、先ほど手に取った足の、吸いつくような
肌の感触を思い出す。
触れているときは、夢中で気がつかなかった。
そのすらりと伸びた白い脚の。
今は服に覆われて隠れている、その付け根で、
この人は既に何度も男と。
先ほどから、脳裏に潜んでいた妄想が、より具体的に
形を取り始める。

「そなた、とうとう下着姿になってしまった・・・あ」
逞しい腕の筋肉を見せ、精悍に佇む男を見て、
ジュリアスは息をのんだ。

下着に覆われた厚い胸板。
そこから続く、長い傷跡。
腕にも、肩にも、見えうる範囲に何ヶ所も。
何があったのか、本人が語らぬ限り知る由もない。
だが、身体が歴史を語っていた。

「見苦しい姿をお見せして、申し訳ありません」
「いや、そなたは優秀な軍人だと聞いている。軍人の
傷は勲章だというぞ」
そう言ってジュリアスは、愛しい男の傷を思いだす。
既に見慣れた、脇腹の傷。
今、どこでどうしているのだろう。
きっと、自分を探している。

「そんなことは」
苦笑して、顔を背けたヴィクトールの苦しげな声音に、
ジュリアスが気づくことはなかった。